税理士 大田区の興味深さ!
認められない場合には会社分割が無効になるというのです。
H氏は、この論文で、会社分割の結果、新設会社に純資産が移転する結果、分割会社の債務超過状態がますます悪化するから、このような分割は特段の事情のないかぎり債務の履行の見込みがないこととなり、分割が許されないとか、分割の結果、債務超過となるような会社分割も基本的には債務の履行の見込みがない分割として許されないとしています。
H氏はつまり、会社分割の結果、資産が外部に出ていくため、分割会社甲の資産内容が分割前より悪化するから、債務の履行の見込みが「分割前より悪くなる」ので分割は許されないとしています。
しかし、このような見解が正しいのか、重大な疑問があります。
債務超過の会社は会社分割ができないと主張する人の論拠は、H氏のこの記述部分に依拠しているのではないかと推測されます。
このため、H氏のこの見解を少しくわしく検討してみましょう。
H氏は、前述の部分のすぐあとに、次のように書いています。
「たとえば、新設分割において、すでに分割会社が債務超過であるような場合、設立会社が株式会社であるときは、少なくとも、最低資本金額に相当する1000万円の純資産が必要となり、その結果、分割後、分割会社の債務超過状態は一層悪化することになるので、このような分割は、特段の事情がないかぎり、債務の履行の見込みがないこととなり、許されないということになろう」本当にそうでしょうか。
まず、新設分割であって、物的分割の場合を考えてみますと、たしかに「最低資本金額に相当する1000万円の純資産が必要となり」ますが、これと引き換えに、設立会社の純資産額に相当する新株全部が分割会社に割り当てられますから、分割会社の資産内容に変更はありません。
したがって、「分割後、分割会社の債務超過状態は一層悪化すること」はありえません。
H氏の見解はあきらかに間違っています。
次いで、新設分割であって、人的分割の場合を考えてみます。
この場合にも、最低1000万円以上の純資産が新設会社に移転することは確かです。
しかし、債権者保護手続きが働きます。
人的分割ですから、会社分割にともない、必ず会社分割の公告・催告がされますから、物的分割の場合より債権者保護が手厚くなっています(374条の4第1項本文)。
この公告・催告がなされたさいに、分割に異議のある債権者は分割会社に弁済の請求や担保提供の請求ができます。
分割会社がこの請求内容を履行できないときは会社分割は無効と考えられますから、弁済や担保提供の準備のないまま、新設・人的分割に入るという無防備な会社分割はまずないはずです。
逆にいえば、分割会社が債務超過であったとしても、分割に異議のある債権者に弁済か担保提供ができるのなら、債権者としてはそれで満足なわけですから、債務超過であるから会社分割は認めないという論理は、法律が要求する以上のものを要求するものであり、不当でしょう。
次いで、H氏は、「また、分割会社が、分割の結果、債務超過になるような会社分割も、基本的には、債務の履行の見込みがない分割として許されないことになろう」と書いています。
この記述も不当だと思います。
ただ、この記載部分は、会社分割とだけいっており、どのような分割の仕方の場合をいっているのか特定していませんから、場合を分けて論じることにしましょう。
まず、新設分割の場合は、物的であれば、分割の結果として債務超過となること自体がありえません(分割後も債務超過であるとすれば、分割前から債務超過であったからで、分割によって債務超過になったわけではありません)。
新設分割で人的分割の場合は、先に述べたことがやはりあてはまり、分割会社が債務超過になったとしても、債権者が手厚く保護されるのですから、それでいいのではないかといえます。
次に、吸収分割の場合です。
吸収分割にさいして発行される新株をすべて分割会社に割り当てる物的分割の場合は、分割会社の純資産に影響を与えませんから、吸収分割によって債務超過になることはありえません。
吸収分割の場合で人的分割の場合は、純資産が外部に流出しますから、分割会社が債務超過になる場合もありえます。
しかし、私たちは、債務超過であっても、キャッシュフローが相当ある事例や、営業利益は黒字である事例、債務超過であっても連帯保証人や物的担保提供者の担保力によって将来の借入れを期待できる事例をたくさん知っています。
このように、将来の可能性を残す企業についてまで会社分割の可能性を否定することは妥当であるとは思えません。
特に考えなければならないのは、かなりのキャッシュフローがあり、営業利益(売上高から売上原価と販売費・管理費を控除した額)は黒である場合であって、吸収分割の結果、キャッシュフローのある部分が吸収承継会社に承継されて、甲会社には資産とこれを超過する負債しか残らないにしても、吸収承継会社乙が営業権を計上することができる結果、乙会社が甲会社の負債を少なくとも営業権価額相当分は承継できるような場合です。
この場合には、会社分割の結果、分割前の債権者からみれば、甲会社の債務超過状態は悪化しますから、甲会社からの返済見込み額は減少しますが、乙会社に移転する負債額の返済可能性が、同額が甲会社に残存していた場合に比べて上昇しますから、分割後の甲会社からの返済見込み額と乙会社からの返済見込み額との合計額は増大するという点です。
営業権を計上できない場合であっても、乙会社として分離していく事業部分のキャッシュフローによって、甲会社の債務超過を形成していた負債を乙会社に移転させ、乙会社が返済することにすれば、返済可能性が増大することは十分に考えられます。
なぜなら、乙会社は、会社分割によって、甲会社のもっていた収益能力を全部もっていくことができるのに、甲会社の債務の一部だけを承継するのですから、身軽になるからです。
収益力があるとしても、甲会社に残っているかぎりは甲会社の負担している過大な債務によって押しつぶされてしまうその能力が、会社分割で身軽になることによって、ある程度の負債を引き受けても返済可能であることは十分考えられます。
会社分割後の甲会社だけをみれば、債務超過になるか、債務超過が悪化するとしても、会社分割後の乙会社からの返済まで考えれば、会社分割前の甲会社に期待できた返済見込み額より多くなるでしょう。
それでも会社分割の合法性を否定しようとするのはナンセンスです。
H氏は、会社分割という法現象が、会社がいわば身二つになるという本質を見失っています。
吸収承継会社が営業権を計上することが認められる場合は、営業権価額に匹敵する額の負債を分割会社から移転して負債として計上したとしても、営業利益を計上する力さえあれば、営業権の減価償却によるキャッシュフローによって移転した負債を返済することができます。
営業権を計上できる場合は、営業利益さえあれば、その額だけ移転する負債額を増加させても返済可能です。
ということは、会社分割しない場合より会社分割したほうが、債権者に対する返済総額は大きくなる場合があるということです。
このことは特に分割会社が債務超過で、近々に倒産必至である場合に明瞭に浮かび上がります。
つまり、債権者からみても、債務超過だからこそ会社分割したほうがいい場合があるのです。
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